芥川賞の小山田浩子著「穴」は児童小説「不思議の国のアリス」を大人の小説に書き直した傑作です

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芥川賞の受賞作には 小難しいひねった内容のものが多いことから 私はほとんど読まずにズット敬遠していましたが 定期購読している文芸春秋3月号に第150回芥川賞を受賞した小山田浩子著「穴」の全文が載っていたので 余り期待せずに読んだところ とても読み応えのある傑作で 一気に読んでしまいました。

未読な方のために簡単なあらすじを冒頭部分だけ紹介すると以下です。

契約社員として働く私(松浦あさひ)は 夫が転勤になったので 勤めを辞め 夫婦で転居することを決める。 引越し先は夫の実家のある県境に近い田舎で 夫の実家が隣に所持していた貸家がたまたま空いたので そこに引っ越す。 専業主婦になった私は ある日 義母から頼まれた払込伝票を処理するためにコンビニエンスストアに歩いて行くことになる。 川辺を歩いていると 得体の知れない獣が現れ前をトコトコ歩いたので 後を追ったところ 草むらの中にあった深さが胸くらいまである小さな穴に落ちてしまう。 その場所をたまたま通りかかった近くの主婦に助けられ コンビニエンスストアで払込伝票の処理を済し帰宅してから 私は 不思議なことに色々と遭遇するようになる。

この冒頭部分は 1865年に英国で刊行された有名な児童小説「不思議の国のアリス」と極めて良く似ています。 「不思議の国のアリス」では 川辺の土手で読書をしていたアリスの前を白ウサギが通りかかったので 追いかけたところ アリスはウサギの穴に落ちてしまい それから「不思議の国」で色々と不思議なことに遭遇します。

小山田浩子さんは 著書「穴」の着想を「不思議の国のアリス」から得たことを示唆するために 「穴」の中で次のように書いています。

「私こないだこんな風な穴に落ちたんです。 川原で この黒い動物がいて 追いかけてたら落ちたんです」と言った。 (中略) 男の人は不快そうに「穴に落ちるなんてとんだ馬鹿です。 何だい お嫁さん(あさひ)は不思議の国のアリスなの? なんだっけ ウサギちゃんを追いかけてたら穴に落ちて大冒険が始まるんだ」

この本「穴」には 薄気味悪く目を離せない不思議な人物が色々と登場します。 その一例として あさひは 一人っ子で長男と聞いてた夫にヒキコモリ状態の兄が居り 夫の両親が住む母屋の物置で一人暮らしているので驚きます。 義兄の存在は 白昼夢のような幻覚や妄想なのか または現実なのか 読者は分からなくなりますが あさひは 穴に落ちってから「不思議の国のあさひ」となり メルヘンの世界に入った解釈すると 何となく分かる気がします。

小山田浩子著「穴」も 芥川賞の受賞作らしく ひねった内容で謎めいていますが “アリス=あさひ”と考えると謎が解けます。 謎めいて分からないと思うなら 著者の掘った巧妙な「穴」に 読者が落とされているからではないでしょうか?

蛇足になりますが この本の中で 義父は マツダの乗用車アテンザを保有しています。 何故 マツダのアテンザなのだろうかと思いましたが 広島生まれの著者は派遣社員としてマツダに一時勤めており 納得しました。

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